ベルガモット・ドミニオンズSS-1

自分の脳内の出来事とはいえ、建国途中で投げ出すのは忍びない部分もあり
少女政府ベルガモット・ドミニオンズのSSを書いてみました。
あのおバカな島はそのままです。
非常に拙い文章ではありますが、何とぞご容赦を。
シナリオ形式にしたいのか小説形式にしたいのか、なんかもう中途半端でスミマセン・・・。

少々気合いを入れすぎて、長くなってしまったかもしれません。
次回は尺、挿絵共にもう少し気楽に行きたいと思います。

個人的な目標としては、
発電所を作り、ベルガモット島全体に配電網システムを通すまで頑張りたいと思います。

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一見様には少々難解な部分もあるかもしれませんが、もし興味がありましたら、
メテオCOMICS刊、少女政府 ベルガモット・ドミニオンズ全4巻を読んでいただくと、より楽しめると思います。
そのときは左の広告から購入していただけると、非常に嬉しかったりです。(商売気)
て、いうか一見様がここに来るのかしら・・・(笑)

ではでは、本編はリンク先からお願いします。
どうぞ最後までお付き合いください!

第二十二章 治安を維持しよう!

ジーナ「もう警察署なんかいらない」
正午を回ったあたりで、ジーナは道路の脇に座り込んだ。
サトウキビは、しがんでもしがんでもまったく味がしなくなっている。

カリブ海、ケイマン諸島の西北西。
南国の島ベルガモットは、今日も朝から暑かった。

小高い丘の上にそびえるプイス城大統領行政府。
その西側から伸びる目抜き通り。
そこをパトロールするのが、警察庁長官ジーナ・ガリバルディの日課だった。
目抜き通りとはななこがそう呼んでいるだけで、
実際は荒れ地とサトウキビ畑と掘っ立て小屋に囲まれただけの道路。
目抜き通りの先は国道16号につきあたり、すぐそばに赤い屋根のラム蒸留所が見える。
ベルガモット唯一の産業施設だ。

ジーナのポケットには、変身グッズの「プリズムガン」と
その弾丸「プリクリスタル」が常備されている。
犯罪や事故が起きた場合、緊急に対処するためのものだ。
しかしここ一週間ほど出番はない。
わざわざ変身するほどでも無い事件や事故ばかりが続いていた。
むしろ活躍しているのは、おやつ代わりに持たされているサトウキビ。

アヴァロンの高等弁務官ヴィヴィアンが、
親書を受け取りベルガモットを去ってから一週間が過ぎていた。
返事はまだない。
妖精島アヴァロンは、水平線に薄く見えたり消えたりを繰り返している。
しかしこれといって動きがないところを見ると、小康状態を保っているようだ。


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第一節 無防備首都

プイス城前の階段。
警察庁長官のジーナが体育座りで佇んでいる。

ななこ「ついにジーナさんがヘソを曲げてしまった」
遠巻きに見ているのは、
大統領の島津ななこと防衛大臣の目黒圭夏。

待てど暮らせど、警察署に関する具体的な予算が組まれないことに業を煮やし、
ジーナの情熱は地の底まで落ちてしまったようだ。

圭夏「ジーナ、お前がそんなでは町の平和は誰が守るんだ」
ジーナ「どうせ妖精たち悪党少ないし」
圭夏「しかし少しはいるんだろ?悪い連中も」
ジーナ「みんなで手分けしてやればイイよ」

ジーナは体育座りのまま、
靴下のゴムを外側に折り込む。
靴下のゴムを元に戻す。

靴下のゴムを外側に折り込む。
靴下のゴムを元に戻す。

靴下のゴムを外側に折り込む。
靴下のゴムを元に戻す。

これを繰り返している。

大統領府兼住居のプイス城から、
そのやり取りを心配そうに見ていた閣僚たちだったが、
さすがに見かねたのか、ぞろぞろと出てきた。

クリスティナ「いつまでも予算を組まない、ターニャのせいだナ」
まるで対岸の火事なのは厚生労働大臣のクリスティナ・フサベル。

ターニャ「なんでいつも私に責任を押しつけるんですか!そもそもななこさんが・・・」
困ったときに眼鏡に手が伸びる癖がある、財務大臣のターニャ・ヤナーチェク。

メルセデス「すまん、実はななことターニャに頼んで、私が止めていたのだ」
申し訳なさげに進み出てくるのは、法務大臣のメルセデス・ヴェーゲナー。

クリスティナ「どういうことダ?」
メルセデス「すべて私のせいだ。未だベルガモットには憲法も刑法も民法もない。」

圭夏「5ヶ月もかかってなにをやってるんだ」
憲法立案の雛形作成をメルセデス一人に任せておいて、酷い言い草である。
ななこ「日本国憲法は2週間で整ったという話だよね」
圭夏「GHQ草案は9日だな。あれは背景が複雑なので一緒にしてはいかんが・・・」
ななこ「複雑?」
圭夏「戦後、日本でのGHQの専横を恐れた英国とソビエトが極東委員会を設置し、
一方のマッカーサーは天皇制廃止への要求を恐れ・・・詳しく聞きたいか?」
ななこ「あっ今度ゆっくり・・・」
ななこは一瞬で意味が分からなくなり、圭夏はそれを一瞬で見抜く。
メルセデス「あれだって30人くらい関わった筈。私は1人だ」
圭夏「私だって少しは手伝ってるぞ」
ななこ「私たち全員合わせても11人ですからねえ・・・」
圭夏「共通点は、どちらも憲法の専門家が一人もいないことか・・・」
深いため息をつく三人。
メルセデス「ま、その話をすると長くなるから一旦置いておく」
メルセデスは自分に向き始めた別の矛先を強引に戻す。

メルセデス「つまり、このままでは文字通りの人治国家、情治国家になりかねない」
圭夏「国家とはいうが、規模としては離島に自治体と小さな産業が生まれただけだがな・・・」
メルセデス「そこで警察署を作ろうものなら、真の独裁国家になるのではないかという心配がな」

ジーナ「私がこんなに暇してるのは、メルのせいだったのか」
メルセデスの言葉を耳ざとく聞きつけたジーナは、体育座りのまま激怒している。
激怒と言っても、普段からほんの少し声が大きくなった程度ではあるが。

メルセデス「す、すまん・・・」
ジーナの足下で正座をするメルセデス。
ジーナ「私が信用出来ないって?」
メルセデス「もちろんジーナが信賞必罰を心がけると信じたい」
メルセデス「しかし想像してみろ」
メルセデス「閣僚のうち、万が一過失で妖精の誰かに怪我を負わせた、
いや最悪死亡させてしまったとしよう」
ジーナ「やな想像だなあ」
メルセデス「ジーナは友達としての情を捨て、公正に処分できるか?」
ジーナ「そこは頑張るよ!ちゃんとする!」
メルセデス「本当か?」
ジーナ「本当だよ」
メルセデス「本当に本当か?」
ジーナ「ぐ」
圭夏「私の目を真っ直ぐに見てみろ」
ジーナ「うん」
圭夏「・・・・・・」
ジーナ「・・・・・・」
圭夏「・・・・・・・・・」
ジーナ「・・・・・・・・・・・・」
クリスティナ「あっ逸らした」

メルセデス「三権分立は絶対必要なのだが、いかんせん知識も人材も時間も予算も足りない」
立法、行政、司法の分立もさることながら、警察、検察、裁判所すら分立できるかどうか。
ターニャ「否定的な材料しかありませんわね・・・」

ななこ「そうだ!」
ななこ「交番みたいな形でも用意出来ないかな?」
ソフィア「交番?」
ようやく口を開いたのは、官房長官のソフィア・ウォレス。
ぞろぞろと出てきた集団の中に居たのだが、変に気配を消す癖があった。
圭夏「ポリスボックス…とは厳密には違うんだったな」
ソフィア「ポリスボックスは1920年代のイギリスで、巡回警官の中継拠点代わりに作られた物ですね。救急箱や警察署への電話を置いている簡易的な詰め所だったとか」
圭夏「それよりは、周辺住民や地域に密着した小型の警察署と思っていい。
交番とは警官が24時間「交」代で「番」に当たることからつけられた名前だとか」
ななこ「交番ってそこにあるだけで、周りも安心するというか心の拠り所になりますよね」
クリスティナ「それイイナ」
ターニャ「予算なら一応多めに確保してますが」
メルセデス「刑法の雛形は出来ているので、少々見切り発車だがいけるかも」

ななこの提案に、ジーナの表情がたちまち明るくなる。
ジーナ「うん!それでいいよ!」

第二節 ビッグ・バッド・ママ

具体的な交番建設の話を聞き、ジーナは再びパトロールに戻った。

スラムと呼ぶと聞こえが悪いが、ベルガモット住民の60%は掘っ立て小屋に住んでいる。
むしろスラムこそが普通なのだ。
しっかりした定職を持つ者ですら、スラムに住んでいることは珍しくない。
国が居住環境を整備し供給していく計画は、
国土交通大臣のマリアが進行しているが、
建設業者テルキネスの手が回らず順番待ちの状態である。

ジーナ「こういうところから治安が乱れていくもんだけど・・・」
バケツを避け、洗濯物をくぐり、木材をまたぎながらジーナは注意深く進む。
妖精たちは清潔好きなのか、ゴミは一ヶ所にまとめられていた。
過剰包装など存在しないベルガモットで生活ゴミはあまり出ないようだ。

妖精「おまわりさーん!」
そこへ妖精の女性が勢いよく扉を開け、声を掛けてきた。
ジーナ「どうしたの?!」
その勢いに身構えるジーナ。

それはジーナの顔なじみの妖精、ノームのカトリンだった。
人間の年齢でいうところの40代くらいだろうか。
カトリン「丁度ベーコン出来たところなんだけど、食べてくかい?」
ジーナ「ホント?!いただきまーす!」
カトリンの右手には、大きなベーコンがフックに刺さったまま吊されている。
カトリンはスモークしたての、まだ肉汁が滴っているベーコンを粗っぽく切り分けた。
ジーナは人目もはばからずにその肉にかぶりついた。
ジーナ「おいしい!」

メルセデス「ああっ!」
ジーナ「どうしたの?」
メルセデス「ジーナへの贈賄の瞬間を目撃してしまった・・・」
ジーナを心配して、後をついてきていたメルセデス。
ジーナ「おおげさな」
カトリン「こないだ逃げた牛を見つけてくれたお礼だよ」
メルセデス「にしても」
ジーナ「あいかわらず堅物だなあ」
カトリン「10頭も逃げ出したのを2日かけて戻してくれたんだ、ジーナがいなかったら大損害だったよ」
メルセデス「それ以上は食べるな!」
二つめのベーコンを口に運ぼうとしたジーナの手を、掴み上げたメルセデスだったが。
メルセデス「んがっ」
叱ろうとしたその口に、ジーナからベーコンをねじ込まれてしまった。
メルセデス「・・・旨い」
ジーナ「でしょ?」

元来のんびり屋のジーナに「速い反応、鋭い感覚、広い視野」のスローガンは縁遠いが
地域住民との関係は良好のようだった。


第三節 刑事の夜明け

1週間が過ぎた。

青空に小気味よい小槌の音が響く。
ウィルマの診療所の目の前に、交番を建設していた。
交番とはいえ300坪を越える大きな敷地だ。
その後の拡張性を見据えてのことらしい。
テルキネス「ラム酒蒸留所の修繕が終わったかと思ったらスグこれだ・・・」
建設事務所の責任者テルキネスは、作業をしながら文句を言っている。
古代ギリシャの服装、キトンのような姿にスキンヘッド。
元々はオリュンポスで神々に仕えていた鍛冶屋だったという伝説がある。
ななこ「いや、ドッグ建造も待ってるよ」
テルキネス「毎日楽しい14時間労働だぞ!いくら妖精でも倒れてしまうぞ!」
ななこ「早くしないと、アンナさんの船が来ちゃうよ!」
アンナとは、ベルガモットのラム酒に興味を示してくれたアメリカ人。
今後一年先まで大量発注をしてくれた人物だ。
ソフィア「もう一つ建設事務所を作らないといけませんね…」

一方、城では交番が出来たときの装備品を準備していた。

ジーナ「制服はこんなのをお願い」
ジーナが服飾衣料担当のピクシー、ロレッタに大きな紙を見せている。
そこにはイタリアの国家憲兵隊、カラビニエリにそっくりな絵が描かれていた。
黒を基調とした制服は、パンツのサイドに赤いライン。
幅広の白い胸ベルトと徽章付きの制帽。
極めつきは膝下まで伸びる真っ黒なマントで、裏地が赤とツートン。
一見すると、悪の総帥のように見えなくもない。
ロレッタ「本当にこれでいいの?」
ロレッタが何度も確認をする。
ジーナ「カッコイイでしょ」
圭夏「威圧的で良い。私は嫌いではないな」
メルセデス「実務能力というより・・・なんだ・・・ファッションショーか?」
ジーナ「一目で警察って分かるくらいがいいと思ってね」

プリシラ「銃がいるんじゃないか?」
顔を見せたのは、外務大臣兼報道官兼宣伝相のプリシラ・マッカーシー。

圭夏「アメリカ人が言うのは説得力あるな」
プリシラ「とんだ偏見だ、地元サンフランシスコは銃規制厳しいんだぞ」
圭夏「刑事ナッシュ・ブリッジスでは、誰も彼もバンバン銃を撃っていたけど」
プリシラ「ドラマと一緒にするな」
圭夏「ウォールマートでは釣り具感覚で銃を売ってるって本当なのか?」
プリシラ「うん、まあな」
ななこ「うわあ・・・」
プリシラ「引くな」
プリシラ「一応年齢制限とか、サフィティケート、修了証明書とかいるけどね」
警察が己の身を守り、市民の安全を護る最大の武器、拳銃。
あまり使うことを考えたくはないが、悪漢を制圧するための必要悪だ。

その調達のため、技術関連担当のクロックトムテが招聘された。
印刷機を見よう見まねで作った天才肌の職人だ。
三角帽にゴーグルを吊し、一方で片眼鏡を引っかけている。
神経質そうな細い指は、洗えど洗えど油で黒く汚れていた。
働き者の証拠である。
クロックトムテ「蒸気式でいいか?」
圭夏「いい加減蒸気機関から離れよう」
やらなくていいと言ったのに、20mはある蒸気式の大砲を作った前科がある。
一発の試射で銃身が歪んでしまったらしい。
クロックトムテ「火薬式はもうちょっと待ってくれ。発電機の研究で忙しい」
黒色火薬は歴史の古い技術ではあるが、火薬を必要としていなかった妖精にとっては厄介な代物のようだった。
ジーナ「ピストルは怖いから、取り敢えず急がなくていいよ」
ジーナにはいざとなれば変身という手が残っている。

圭夏「取り敢えず警棒だけでも用意してもらうか」
ジーナ「あのカチャカチャッて伸びるカッコイイヤツ?」
一瞬テンションがあがるジーナだったが、伸縮式の特殊警棒のようなものはやはりなく、昔ながらの木製の物が用意された。
ジーナ「紐を引っかける穴がないね」
ななこ「なんとなく短いような気が」
ジーナ「ちょっとこれ!小麦粉が少し残ってる!麺棒じゃん!」
ななこ「せめてちゃんと洗いきってほしかった・・・」
圭夏は面倒臭そうに錐を借りてきて、
麺棒の3分の1くらいの場所に穴を空け、紐を通した。
ジーナ「それっぽく見えるのがむしろヤダ・・・」

ジーナ「それよりも警察手帳は?」
小麦粉をきれいに洗い落とし、まだ少し湿っている麺棒改め警棒を、腰から下げてみたジーナ。
ジーナ「『警察だ!』ってポケットからサッと、シュパッと出すのに憧れてるんだよね」
ななこ「分かる-」
圭夏「ベルガモットには素材がないから、差し当たって私が使っていたシステム手帳を貸そう」
ジーナ「素材?革に紙に糸に糊に・・・なんとかなるよ」
圭夏「なら一緒だ。これだって合成だが革と紙と糸と糊と・・・折り返しに塩化ビニールも使ってる」
ジーナ「えー」
圭夏「そう嫌な顔をするな」
ななこ「圭夏さんのシステム手帳、真っ黒で女の子っぽくないね」
圭夏「でも警察手帳に見えるだろ?」
ジーナ「途中までなんか書いてる」
ソフィア「4月23日・鰆の西京味噌焼き、茄子の揚げ浸し、味噌汁の具はわかめ。
24日・鶏肉とたけのこのおかか炒め、春雨の酢の物、味噌汁の具は豆腐。
25日・麻婆丼、さつま芋の煮物・・・」
ジーナ「食べ物のことばかり」
ななこ「まあ忙しそう」
圭夏「嫌なら黒く塗ったカマボコ板を渡すぞ」

ジーナ「手錠は?」
メルセデス「これを使え」
ジーナ「荒縄じゃん、いつも持ってるよ」
ジーナ「ちゃんとしたの欲しいよ」
メルセデス「贅沢言うな」

第四節 俺たちの闘い

ジーナの自室。
ジーナは下唇を付きだしたまま、ベッドで横になっている。
圭夏「またヘソを曲げてしまった」
ベルガモットの文明で揃えられる装備品と、ジーナの思い描く理想のそれがあまりにかけ離れていたからだ。
警察庁で一番偉い人物に、麺棒と荒縄をぶら下げ、システム手帳を警察手帳と言い張れという。
完全に小学生男子のアレである。

ジーナは横になったまま、
ヘアゴムを指にかけ、
布団に弾き、パシッと音を立てる。

ヘアゴムを指にかけ、
パシッと音を立てる。

ヘアゴムを指にかけ、
思わぬ方向に飛んでいってしまう。

もう面倒臭いので取りに行かない。

圭夏「なにかあると、取り敢えずゴムで手遊びなんだな」
アレットがそのヘアゴムを拾いに行った。
アレット「実は現場で一番働いていたのはジーナですからね」
アレット「予算を組んだり、お医者さんや薬を手配したり、
リュタン・リュターを鍛えたりするのも大変ですが」
アレット「ジーナは朝から晩までベルガモットのパトロールをし、コツコツと肉体労働をしてたのよ」
実は地味に変身回数が多いのはジーナだった。
プレジデンテのななこが一番変身しているイメージがあるが、
それも巨像が現れたときだけ。
ジーナは地域を守る警察として、緊急時には変身をしていたのだった。

メルセデス「変身回数が多いのはクリスティナではないのか」
アレット「余程重篤な患者が出ない限り、ウィルマが民間療法と足りない機材で頑張ってるわ」
アレット「よく分からないオカルトの力に頼るのは、エルフのプライドが許さないとかで」
メルセデス「エルフがオカルトを否定するかね」

メルセデス「妖精中毒とやらは大丈夫なのか?」
妖精中毒とは、頻繁に変身を繰り返すことで、人間と妖精の狭間が曖昧になり、
人間の部分が不調を起こしてしまう症状。
以前クリスティナが医療のために連続で4回も変身をして、気を失ってしまったことがある。
最悪、妖精化が止まらなくなり、人でない「何か」になってしまうという噂だ。
アレット「ウィルマの話では、一日一回くらいなら大丈夫とか・・・」
メルセデス「卵の摂取量みたいだな」

メルセデス「装備品は兎も角、出来るだけちゃんとしてやろう」
圭夏「ジーナ一人の負担が大きすぎるんだ」
ななこ「警察の人を増やしましょう」
アレット「そうね」
そう言うと、4人はジーナの部屋をあとにした。
魂が抜けたようにベッドで伸びているジーナの下唇には、
アレットが先程回収したヘアゴムが引っかけてある。
ジーナ「私抜きで話がサクサク進んでるし・・・」

プイス城中央の待合室。
メルセデス「まずはモラルが高く腕っ節の強い妖精を募集して」
アレット「出来れば学校を出た妖精が必要だけど、急には無理ね」
ななこ「アレット学校は小さい子ばかりですからね」

交番の予定だった場所は、やはり警察署に変更することとなった。
人員を確保するとすれば、それなりに大きな建造物が必要になるだろうという判断だ。
テルキネス「ほら見たことか!作り直せってか!?」
ななこ「いや、今ある物をもうちょっと大きくする感じで・・・・・・」
テルキネスは広げられた設計図を、恐るべき速度で書き換えながら愚痴を漏らしている。
テルキネス「これが終わったら長期休暇貰うぞ!」
ななこ「あ、交番は交番で必要なので10ヶ所くらい候補があるんですが」
テルキネス「あー殺す気だ!殺す気なんだな!」

黄金の林檎団の面々も召集された。
頭領「恩赦をかけたとはいえ、叛逆者にこういう仕事をやらせていいのか」
ななこ「ほら、毒を持って毒を制すと言うじゃない」
ソフィア「本人たちの目の前で言っちゃダメよ」
頭領「なんか色々スマン・・・」
圭夏「いや、荒くれ者のほうが役に立つ場面もある」
頭領「荒くれでスマン・・・」


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圭夏「大雑把に日本での警察署の業務を調べておいたんだが」
圭夏が走り書きしておいたシステム手帳を読み上げる。
「『地域警察』」「交番、駐在所で犯罪や事故の防止と犯罪の検挙。あとはパトロール、巡回とか」
「『生活安全』」「安全なまちづくり、少年に関わる犯罪やその予防、消費者全般の防犯保安活動」
「『刑事』」「犯罪を捜査し、被疑者を検挙する」
「『交通』」「交通に関わる全般、事故処理、安全対策、規制整備等の業務」
「『警備』」「要人警護、災害救助やテロ対応、反社会団体の捜査」
「『総務』」「これらの管理運営。情報管理、会計経理、施設、設備、装備品の調達、管理」

ななこ「そんな一度には部署を増やせないね」
ソフィア「地域警察と生活安全が微妙に被ってる気が」
圭夏「対応する数が多いから細分化してるんだろう」
ななこ「逆にこれを一人でやっているジーナさんが凄いよ」

第五節 ろくでなしの詩

次の日。
ジーナは面倒くさがりながらも、いつものパトロールにでかけた。
積極的に行動はしないが、一日中じっとしているのも性に合わないらしい。

事件は夕暮れ頃起きた。
カトリン「ドロボーッ!!!!」
ジーナが目を向けた先には、牛飼いのカトリンが走っていく様。
その先にはベーコンを抱えて走り去るノームの姿があった。

ジーナ「私の目の前で盗っ人とはふてえ野郎だ!」
軽やかに走り出すジーナ。
身長60cmほどの妖精の逃げ足は想像するまでもなく。
閣僚の中でプリシラの次に脚が速いジーナには、変身すら不要だった。

200mも走ったところで、首後ろから猫のように掴み上げられる泥棒妖精。
ジーナは鞄から荒縄を取り出し、手慣れた様子で縛り上げる。

泥棒「チクショウっ!離せっ!」
ジーナが捕まえたノームは見覚えのある顔だった。
カミナリのような髭に下まつげがバシバシの目。
背中には古典的な唐草模様の風呂敷。

ジーナ「また君か えー・・・とヒューズだっけ」
ヒューズ「フン」
ジーナ「こないだウインナーを盗もうとして捕まったばっかだよね」
ヒューズ「人違い、妖精違いだ」
ジーナ「新しい仕事先紹介してあげたでしょ?どうしたの?」
驚くことに、刑法が定まっていないベルガモットには受刑者という概念がない。
今のところ犯罪が少ないベルガモットでは刑務所が存在せず、
ジーナの裁量で刑罰や刑務作業を課すことになっていた。
今のところ、一番の凶悪犯罪者はこのヒューズという妖精である。
前科3犯。全て窃盗だった。
ジーナはヒューズが犯罪に走る原因は貧困にあると看破し、
仕事を斡旋したばかりだった。

ヒューズ「倉庫番か?腰は痛いし、主任はうるさいし、辞めてやったわ!」
ジーナ「へー、もうやめたんだ?」
縛られたまま開き直っている泥棒ヒューズ。
ジーナ「東洋の言葉に「仏の顔も三度」というのがあるらしいね」
ヒューズ「三度ってことは、今回まで見逃してくれるってことか?」
ジーナ「仏でも三度目はぶち切れるってことだよー」
ジーナは瓢箪のように縛り上げたヒューズを背中に担ぎ、城へ向かった。

城へ連行する道すがら。
ジーナの背中で巾着袋のようにヒューズが揺れている。
ジーナ「倉庫番の前はサトウキビ畑、サトウキビ畑の前は建設事務所。どうすんの?これから」
ヒューズ「ちまちま給料を稼ぐとか、ケチ臭いことやってられるか!」
ジーナ「へえ」
ヒューズ「俺様はもっとでかいことをやる男なんだよ!」
ジーナ「反省の色ゼロだ」

第六節 眼には眼を

そんな会話をしながら30分ほどでプイス城に到着した。
メルセデス「取り敢えず縛り首だな」
ヒューズ「!?」
ななこ「早い早い」

とりあえずヒューズは、中央の待合室に天井から吊された。
ヒューズ「なんてところに吊すんだ!」
メルセデス「なんてところとはなんだ。アヴァロンの高等弁務官ヴィヴィアンと会談をした歴史的な場所だぞ」
現行犯とはいえ被疑者を天井から吊すという、近代国家からはほど遠い、弁護士や人権派が目撃したら気絶してしまいそうな光景である。
そこへ圭夏が1mほどの角材を持って現れた。
圭夏「取り敢えず百叩きだなこれは」
ヒューズ「ひゃ・・・100回耐えればいいのか?」
圭夏「江戸時代では重敲と言ってな。大衆の前で行い、見せしめの意味もあったそうだ」
ヒューズ「それくらいなら・・・」
圭夏「・・・だが」
ヒューズ「・・・?」
圭夏「ときには死んでしまう者もいたそうだ」
ヒューズ「!!!?」
ソフィア「角材ではなかったと思います!」
死ぬ。確実に死ぬ。
ななこ「どうして皆さんそんな過激なんですか!」

メルセデス「もっと良いことを考えた」
ジーナ「何?」
メルセデス「お隣の国、メキシコに「ピニャータ」という風習があるのを知ってるか?」
圭夏「たしかお祝い事で、お菓子を詰め込んだ紙製の人形を吊して」
圭夏「目隠しした子供が棒で叩いて割って、お腹から出てきたお菓子を拾う的な」
メルセデス「そう」「それでだ」
メルセデス「この妖精に袋のままキャンディをたらふく食べさせてだな、そこに圭夏が持って来た角材で・・・」
ヒューズ「ちょっっっっ!!!!!?」
ソフィア「それ以上はダメです」

メルセデス「と、冗談はさておき」
ジーナ「メルが言うと冗談に聞こえないよ」
天井に吊された状態で、憔悴しきっているヒューズ。
メルセデス「犯罪者を裁き、刑罰を与えるというのは国家の権利であり義務でもあるわけだ」
圭夏「悪党を野放しにしておく国は信用して貰えないからな」
圭夏の手元で角材が動くたび、微妙に脅えるヒューズだった。
メルセデス「暫くなあなあで進めてきた治安維持ではあったが、
きちんと厳格化、明文化しないといけない」
メルセデスが持って来たのは電話帳ほどの分厚い紙の束。
ななこ「ついに出来たんですか!?憲法」
メルセデス「いや、まだ試案・・・下書きだ。しかもその一部」
メルセデス「ついでに言えば、今回の件と直接関わるような内容は書かれていない」

そう言うとメルセデスが待合室から一度出て行き、1分ほどで戻ってきた。
その手には別の紙の束がいくつか抱えられている。
メルセデス「これが刑法と刑事訴訟法の雛形だ」
とんでもない量の文だった。メルセデスはこれを一人で進めていたという。
メルセデス「ななこ、六法という言葉は聞いたことあるか?」
ななこ「六法全書という言葉なら」
圭夏「大雑把ではあるが、六法をまとめた法典が日本の六法全書という物だ。」
メルセデス「「憲法」、「民法」、「刑法」、「商法」、「民事訴訟法」、「刑事訴訟法」の6つ。これがあってはじめてベルガモットは法秩序を手に入れることができるといえよう」
圭夏「喫緊でベルガモットに必要なのはこちらのほうかもしれないな」
圭夏はメルセデスが持って来た雛形に目を下ろす。
メルセデス「で、だ」
メルセデス「警察はまだしも、現状のベルガモットでは検察と裁判所を用意出来る気がしない」
圭夏「司法権すら持つジーナは、町奉行みたいなものだな」
メルセデス「今後、検察や裁判所を作るときには、エルフの連中に任せてみようと思う」
ソフィア「妖精の中でも、しっかり公私を分けられるイメージありますからね」
よく言えば気高い、悪く言えばプライドが高いエルフの一族は、
必要とあらば身内ですら断頭台に送ってしまうイメージがある。
メルセデス「こちらが定めた法に口を出してくるだろうなあ・・・今から手伝って貰ったほうがいいのかもしれん」
ジーナ「なんだか面倒臭い話になってきたから、ご飯食べてきていい?」
ななこ「あっ・・・私も・・・」
なんとか話についていこうとしていたななこと、最初からうわの空だったジーナ。
メルセデス「と、まあ長々と話しておいてなんだが」
メルセデス「今回この話は置いておく」
ジーナ「えー?」
メルセデス「ここまでは法整備の現状と今後の課題」
メルセデス「問題は、目の前にある刑罰に関してだ」
全員の視線は吊されたヒューズの下へ。

メルセデス「応報刑と目的刑という言葉がある」
メルセデス「応報刑とは、犯罪行為には、犯罪者に苦痛を与えるべきだとするもの」
ソフィア「有名なのはハンムラビ法典の「目には目を歯には歯を」ですね」
ヒューズは固唾を呑む。
メルセデス「あれは同害報復、つまり仕返しに限度を設けようという試みではあるが」
クリスティナ「ベーコンを盗んだんだからベーコンにしてやればいいんだヨ」
ジーナ「どうしてそうなる」

メルセデス「一方の目的刑とは、教育刑、反省刑という言い方をすれば分かりやすいか」
ななこ「あー」
メルセデス「犯罪の背景や要因は、故意、過失から始まり、経済的理由、環境、怨恨、快楽目的と色々あるため、現在でも量刑に関する議論は各国様々なのだが」
メルセデス「今までジーナが執った手段は、犯罪者の矯正や社会復帰をしっかり見据えた目的刑論によるもの」
メルセデス「いかにもあの子らしい考え方だ」

メルセデス「だがヒューズ、お前は」
メルセデス「ジーナの気持ちを踏みにじった」
静かに、しかし深いところから湧き上がる冷たい怒りを抑えているメルセデス。
いつもは熱く、厳しく怒るメルセデスだが、こんな怒り方もするんだと、
ななこは驚いた。
その迫力を前に、ヒューズは固まってしまった。

ターニャ「ベルガモットでは真面目に働いてさえいれば、食料の配給はほぼ無料ですわ」
ソフィア「ターニャさんが一度国庫に集め、再分配するシステムを築いてくれましたからね」
ななこ「なのに・・・」

テルキネス「警察署出来たぞ」
そこへテルキネスがフラリと現れた。
ななこ「ええっもう?」
あれこれ愚痴は言いながらも、仕事は早いテルキネスだった。
全員の怒りがヒューズに向けられ、あわや圭夏の角材が大活躍してしまうかもしれないという空気を一変してくれた。
ななこ「ありがとうございます!」
完成した後、相手に喜ばれ少し褒められる。
物作りに関わる人間はそれで少し疲れが癒え、明日への燃料にするものだ。
テルキネスはそんな気質をななこに利用されているのではないか?と思うことがある。
テルキネスはななこの顔を覗き込むが、
邪気のないななこの瞳は、明らかに天然で喜んでいる様子だった。
こういう手合いが一番たちが悪い。
メルセデス「簡単な留置場も用意して貰ったんだったな」
テルキネス「どんな妖精でも破れない特別製だ」

ジーナ「おめでとうヒューズ君。留置場収容者の名誉ある第1号だ」

第七節 帰って来た逃亡者

ここでいつもなら巨像がやってきて・・・となるはずだが
ななこ「停戦調停中だから、来ないよね」
警戒妖精「巨像出現!」
圭夏「はああああ?!」
警戒妖精「北北西、ハドレヴ地区から突如現れました!」

久しぶりに現れたアヴァロンの巨像。
警戒妖精「ドラゴンのような形です!!」

それは機械で作られたワイバーン、飛竜の姿をしていた。
鎧のような外装なのか、むしろ鎧そのもので構成されているかのようにも見える。
下半身からは尻尾が伸びているが、骨のまま剥き出しになっている。
操縦は背中にある櫓で行っているようだ。

丘の麓から、黄金の林檎団頭領が走ってくる。
頭領「すまん!森の中にアヴァロンの残党が潜伏してた!」
ななこ「停戦中ってことを知らないのね!」
頭領「残骸を使って、巨像を1つ仕立ててしまったらしい!」
圭夏「寄せ集めだというのに、久しぶりだからって気合い入れてきたな!」
勿論、巨像が向かう目標は、出来上がったばかりの警察署。

ジーナ「これもう警察じゃなくて軍隊の扱うことだよね?」
ジーナはそう言いながらも、鞄から自前のプリズムガンを取り出している。

「プリズムドロップ!!」
変身はジーナとメルセデスの二人のみ。
予備のクリスタルは回復係のクリスティナが温存することに。
二人は地面を蹴ると、ドラゴンが向かってきている方向へと飛び立った。

ジーナの左斜め後方で併進するメルセデス。
メルセデス「少しでも危なそうだったら助太刀に入るぞ」
ジーナ「出番はないと思うよ-」

圭夏とメルセデスが評する、閣僚最強のジーナ。
オールドスクールな魔女の姿に、
これまたオールドスクールなアビリティ「炎使い」。
ジーナは普段の言動や行動からも、一番妖精に近いのかもしれない。
いつも味方への被害を気遣い、本気を出せていない様子だったので、
今回はジーナに思う存分力を発揮してもらい、
その能力の底を観察させて貰う目的もあった。

第八節 燃える罠からの脱出

対地速度およそ100km/h。
ジーナは正面にドラゴンを捉えた。
その距離およそ10km。敵はまだ空に浮かぶ黒い点でしかない。
上空100mの眼下を通り過ぎるのは、カトリンが働く牧場。
ジーナが飛び出した理由はここにもあった。
ジーナ「先週、柵を修理したばかりなんだから!」
ドラゴンが正面から進入すると、牧場にまた被害が出てしまう。
ジーナはそれが何よりも腹立たしい様子だった。
メルセデス「公私混同も甚だしい・・・」

ジーナの周辺に陽炎が立ち、景色が歪んだ。
下げている5つのランタンが臨戦態勢に入った様子。
一瞬遅れてメルセデスが悲鳴を上げた。
メルセデス「熱っ!!」
追走をしていたせいで、後方で熱風を受けてしまう。
メルセデスは高度を下げ距離を広げる。
ちなみにジーナは下げているランタンに、一つ一つ名前を付けていた。
「アルチェネロ」「ムッティ」「ハインツ」「コッポラ」「ポジリポ」
炎=赤=トマトとシナプスが直結したジーナの脳内がうかがい知れる。

徐々に大きくなってくるドラゴンの影。
しかし辛うじてシルエットが分かるくらいで、まだまだ「点」にしか見えない。
ところがジーナは早々に炎を纏い、先制攻撃を仕掛けた。
ドラゴンめがけて発射される5つの炎。
メルセデス「まだ距離がある!届かないぞ!」
6発目、7発目。ジーナはお構いなしに連続で炎を発射した。
到底届かない、無駄弾だ。要らぬ消耗をした。メルセデスはそう思った。
しかし。

発射から1秒もせずにドラゴンは急に大きくなり、炎の弾をまともに受けた。
かなりの相対速度だった。
ジーナは目測でドラゴンがかなりのスピードで突っ込んできていると判断していた。
あれだけの少ない視覚情報で分かるものだろうか?
メルセデスはジーナの観察眼と勘の良さにただただ驚いた。
炎に包まれたドラゴンが一瞬で二人の真横を通り過ぎていく。
メルセデス「15mはあったか?」
ロールしながら高度を下げていくドラゴン。
メルセデス「いつもにも増してあっけないな」
ジーナ「いや、まだだよ!」

ドラゴンは体勢を立て直して高度を上げ、機位を戻していた。
メルセデス「風で火を消すために降下しただけだったか!」
メルセデスが振り返ると、ジーナは若干血の気が引いていた。
ジーナ「あれを受けてまだ飛んでるの?」
ドラゴンは頭部の一部を熱で溶かしてしまったものの、飛行や戦闘に支障はないように見える。
今までどんな敵も撫でるような力で、一撃のもと倒してきたジーナ。
少々本気を出したというのに、なおも向かってくる敵は初めてだった。
敵もこちらを研究してきているようだ。

メルセデス「動きを止めるな!高度を稼ぐぞ!」
飛ぶことが苦手なメルセデスは、敵よりも高度が下がることを異常に嫌っていた。
上から被られると、そのまま何も出来ずに絡め取られる危険性がある。
メルセデス「どうしたジーナ?私を振り切って高度を上げていいんだぞ」
ジーナ「これで精一杯だよ」
一方のジーナも飛行に関しては、あまり得意な方ではなかった。
背中の羽は閣僚屈指の小ささである。
ジーナ「一番速いのはぶっちぎりでプリシラでしょ、次が圭夏かアレット。意外に4番目に速いのはターニャなんだ」
ジーナ「後はドングリの背比べだね」

ドラゴンはその大きさに似合わず、かなりの速度を維持していた。
ゆっくりと旋回しつつ、高度を取り戻そうとしている。
メルセデス「旋回性能はあまり高くないようだ・・・が」
高度を失ってはいけないというセオリーを理解している。骨っぽい相手だ。
しかしそのまま足の遅いジーナとメルセデスを置いていけば振り切れるであろうに、
そのまま警察署に向かわないというのは、敵とはいえ有り難い心意気である。

ドラゴンの首がこちらを向いた。
ジーナ「来るよ!」
開いた口の奥が光ったかと思うと、ファイアブレスが吐き出される。
3発。ジーナの炎の10倍はある大きさだ。
二人は高度を下げて対応した。
メルセデス「これ以上高度を落としたくないな・・・」
ジーナ「しかし、今ので少し見えてきたよ」
ジーナ「首が動くのはせいぜい30度ほど。発射前に口の中が一瞬光る」
メルセデス「あいつらも初弾を外したのは痛かったな」
ジーナ「しかもファイアブレスの反動が大きくて、撃つ度に少しスピードが落ちるみたい」
メルセデス「前にしか撃てない。正面を避ければ正解というわけか」
ジーナ「だね」
メルセデス「しかしここで残念なお知らせがある」
ジーナ「?」
メルセデス「私は飛び道具を持たない接近パワー型。そして敵の脚は速い。つまりだ」
ジーナ「手が届かない。役立たずじゃん」
メルセデス「そうだ」
ジーナ「メルって時々天然だね」
メルセデス「天然に天然と言われたくないぞ!」
ジーナ「気にするな」
メルセデス「その…なんだ、ドラゴンと聞き、インファイトでの殴り合いになるかと思ったんだ」
ジーナ「そこでゆっくり見てて、片付けてくるよ」
ジーナは一瞬呆れた顔をしたが、メルセデスに手を振ってその場を離れた。
メルセデス「私は!断じて!天然なんかじゃないぞ!」
ジーナ「分かった分かった」

事実上、ジーナとドラゴンの1対1になった。
火力と火力のぶつかり合いだ。
弱点の魔法陣は体の中央。とくに捻りはない。
いつものように装甲を破り、直接魔法陣を破壊すれば、
巨像はバラバラになる。
ただ、その耐火性能の高さが厄介だった。
空を飛ぶ戦車と戦っているような感覚。
ルーティンワークのように巨像を倒しているいつもの余裕は、もはや無い。

sasie3.jpg


ジーナはドラゴンの次の位置を予測して、偏差射撃を繰り返す。
そのことごとくがドラゴンに命中したが、装甲の表面を焦がす程度だった。
それならばと、剥き出しに見える背中の櫓を狙ったが、効いている様子がない。
見えないシールドで耐火処理を施しているようだった。
対してドラゴンは、ジーナを正面に捉えようと様々な動きを繰り返す。
ジーナは巧みな動きでそれをかわしていたが、速度の差が災いし、
徐々にそれも保たなくなってきていた。
連続で空戦機動をしているので、徐々に息も上がってしまっている。

メルセデスは拳を一撃でも叩き込めないかと思案し、
時間をかけて高度を取り、垂直方向での落下速度をプラスしてドラゴンに向かうものの、
ドラゴンが過ぎ去って3秒も4秒も経ってから到着するような始末だった。
位置を予測して動いても、完全に読まれてしまうような速度差である。
三輪車で自転車の後ろを取れ、と言われているようなものだった。
メルセデス「お・・・遅すぎる!私!」

ドラゴンは、一度大きく距離を取ってから旋回すれば、
ジーナを正面に捉えられることを学習したようだ。
ジーナが放つ炎の有効射程は300m、ドラゴンも同じようなものだが、
圧倒的な速度差で一撃離脱の戦法をとられると、剥き身の側は分が悪い。
ジーナ「まずいかなこれは」
ドラゴンの旋回方向の虚をついて、逆方向に逃げれば射撃タイミングを減らすことが出来る。
すれ違いざま1発のファイアブレスが飛んできた。
予備動作が大きい攻撃のため、難なくかわすジーナだったが。
メルセデス「ジーナも速度が落ちてきている」

ドッグファイト、巴戦に持ち込めれば、小回りの利くジーナが有利なのだが、敵はそれに乗ってこない。
ドラゴンは急な旋回や上昇などの無駄な機動を減らし、速度の低下を抑えている。
少し高度を落としてはジーナに襲いかかり、その直後に少し上昇しては、その機位を保っていた。
2発のファイアブレス。
ジーナへの攻撃チャンスが増えてきた。
ジーナもすれ違いざま炎の弾を命中させてはいるが、致命傷にはほど遠い。

ジーナの息は完全に上がってしまっている。
開いてしまった口を隠す余裕はなかった。
酸素補給が最優先ではあるが、序盤からの機位獲得合戦で高度がどんどん高くなってしまい、
空気がかなり薄くなってしまっている。
そのかわりに速度も出るが、それは敵も同じだった。
いっそ高度を落として酸素を、と思ったが、
この意地の張り合いを下りるのは非常に危険である。
高度を下げたところを上から襲いかかるというのは、空戦の常套手段だ。

敵の思惑に嵌まってしまった。ジーナは思った。
ドラゴンはその速度を保ちながら、悠々と一撃離脱の攻撃を仕掛けてくればいい。
最終的にフラフラになったジーナを、確実に焼き上げる腹づもりだろう。
メルセデスはその後だ。
ジーナ「ん?メル?」

ジーナはメルセデスを探した。
メルセデス「うりゃあああああああああああ!!!」
5度目のダイビング奇襲を失敗したようで、6度目の奇襲をかけようと高度を上げている。
ドラゴンのほうもメルセデスをノーマークにしているわけではなく、
攻撃予測を立てその奇襲をかわしていた。
ジーナ「敵はかなりの手練れが操ってるね・・・」

そこへ3発のファイアブレスが飛んできた。
ついに敵の攻撃チャンスは序盤の3倍までになってしまったらしい。
かろうじてかわすジーナだったが、3発目を右脚に受けてしまった。
ジーナ「熱っっ!!!」
プリズムドロップによって得た装束は頑丈だが、
太股まで覆っていたオーバーニーソックスは靴ごと焼け落ちてしまった。
右だけが裸足になってしまう。
中途半端に剥がれたソックスが空気抵抗を増やす。
ジーナは回避機動をとりながら、それを乱暴に破り捨てた。
何カ所か火傷を負っているようだが、気にしている余裕はない。
急激に高度を落とし離脱を計るジーナ。

ドラゴンはそこを見逃さず、上空から襲いかかってきた。
そこへメルセデスが高高度から垂直に降下し、逆にドラゴンへ襲いかかる。
速度は十分。狙いも確か。しかし。
ドラゴンは難なくその攻撃をかわした。
常にメルセデスの動きはマークされているのだ。

ジーナの背後から放たれるファイアブレス。
ジーナは苦し紛れに防御用の炎を後方に展開させ、ファイアブレスの方向を反らせようと試みた。
ジーナの炎とファイアブレスが直接ぶつかり合う。
ほんの少し方向を変えるファイアブレスだったが、ジーナの両袖を一気に灰にしてしまった。
剥き出しになるジーナの両腕。
舌打ちすら業火の中で蒸発するかのようだった。
しかし、まだランタンは生きている。

ジーナは失速覚悟で振り向き、5本の炎を不規則に絡めながらドラゴンに発射した。
炎が拡がり、ドラゴンを包む。
範囲こそ大きいが、それで頑強な装甲を破れはできない。

詰んだ。
あれほど精強で苦戦したベルガモット閣僚の一人。それをようやく始末できる。
ドラゴンの操縦席に座るアヴァロンの妖精が皆がそう思った。
ジーナが逃げる方向へもう一度旋回するドラゴン。
しかし。
深追いをしすぎた。
いきなり腹部から強烈な打撃を受け、ドラゴンの首が下がる。

メルセデス「うりゃあああああああああああ!!!」
後方を警戒していたアヴァロンの妖精、赤帽子が見たのは。
足下から頭上にスライドしていく、拳状の巨大なウサギの耳、炎の光を照り返すゴーグル、
般若のようなメルセデスの顔、飛び散るドラゴンの破片、装甲がついたメルセデスの脚。
その間0.1秒。

ドラゴンはメルセデスの拳によって、腹部から背中にかけて貫通させられていた。
一瞬おいた後、ドラゴンは大爆発して地上へと墜落していった。

ジーナとメルセデスは例によって脱出を図るアヴァロンの妖精を、またたく間に捕らえた。
その数4体。寿司の折詰のように綺麗に縛られている。
ジーナ「メル、よく私のやりたいこと分かってくれたね」
メルセデス「まあ・・・あのくらいはな」
最後に放った炎は、ドラゴンを倒す攻撃ではなく目眩ましの物。
ジーナ「ゲームでやってて気づいたんだけど、炎の攻撃って熱さそのものも怖いけど、
視界を塞がれるのが一番厳しいんだよね」
奇襲を失敗したと見せたメルセデスは、
炎に紛れてドラゴンの死角である胴体の直下に回り込んでいたのだ。
あのジーナが高度を下げるという下策をとるということは、何か狙いがあると睨んだ通りだった。
ドラゴンがメルセデスを見失った時間はたったの6秒。
それが生死を分けた。
メルセデス「一発勝負は危なかった。死んでいたのはジーナのほうだったかもしれないぞ」
すっかりみすぼらしくなってしまったジーナを見る。
両袖は焼け落ち、右脚はつま先まで剥き出しになっていた。
ところどころ防ぎきれなかった火傷を負っている。
ジーナがこれほどボロボロに追い詰められたのは初めてだろう。
ジーナ「そうはならなかったじゃん」
ジーナは少しだけ目を細め、両方の口角を上げた。
ジーナが寄せる信頼に、照れくさそうに目を逸らすメルセデス。
メルセデス「さあ、戻ろぞ」
ジーナ「あ、噛んだ」
メルセデス「うるさい」

夕日に照らされてプイス城へと針路を取る二人。
その背中には縛り上げられた赤帽子が2体ずつ揺れていた。

第九節 無気力のジーナに愛と勇気を

警察署。

ジーナ「ヒューズ、お友達が増えたよ-」
留置場、檻の中で横になっていたヒューズが起き上がると、
そこには4人の新入りが直立不動で整列していた。
赤帽子「よろしくお願いします」
ヒューズ「お、おう」
ヒューズが散らかしてしまっていた牢屋内をテキパキと片付け始める赤帽子たち。
一方のヒューズは、軍人気質の4人にすっかり気圧されてしまっていた。

赤帽子に関しては、おそらくヴィヴィアンとの交渉で送還することになる。
気掛かりなのはヒューズの今後。
閣僚の間でも常に交わされる性善説と性悪説。
いずれの説にしても、社会の規範や遵法精神というのは努力して獲得せねばならないということ。
ヒューズを信じ、今後の矯正、教育に期待をするのか。
逆にヒューズを屑と断じ、諦めるのか。
それにはもう暫く時間が必要だった。

署長室は立派な作りだった。
いかにもなローズウッド材の巨大な机に、応接用ソファー、
窓際にはベルガモットの国旗が三脚にささえられ立っている。
ななこ「大統領室より豪華だ」
ソフィア「気のせいよ」

ロレッタ「これちょっと着てみて?」
ジーナの制服の仮縫いが終わったらしく、補正のため体に合わせにやってきた。
ロレッタが広げたドレス箱の中で、背筋の伸びた制服が黒く輝いていた。
ジーナ「わあ」
ロレッタ「ゆっくり着てね、ゆっくり」
興奮するジーナが乱暴に袖を通さないように、ロレッタは丁寧に服を広げた。
ジーナはその場で服を脱ぎはじめ、室内に微妙な空気が漂う。
メルセデス「更衣室があるだろう!そこに行け!」
ジーナ「えー、もうパンツ一枚になっちゃったよ」

おっぱい星人のななこも、並の大きさのジーナにはセンサーが働かない様子。
目が死んでいる。呼吸も至って静かだ。
ソフィア「少しは興味を示してあげて」
勝者の余裕である。ソフィアが時折見せる、ナチュラルクズの横顔。

改めて服を着てから移動するのもなんなので、そのまま署長室で仮縫い合わせを続けることになった。
シャツを着て、ズボンを履き、上着を着て、マントを羽織り。
糸がまだ剥き出しの状態ではあるが、その豪華さは十分伝わってきた。
ジーナ「すごい」
メルセデス「コスプレみたいだ」
ロレッタ「窮屈なところはない?」
ジーナ「うん」
ロレッタの指示で、ジーナは腕を上げたり脚を曲げたりしている。
ななこ「大統領の服より豪華だ」
ソフィア「これは気のせいじゃないよね」

あまり変化がないので分からないが、明らかにテンションが上がっているジーナ。
これで仕事のモチベーションも上がることだろう。
メルセデス「ジーナは名誉欲からは縁遠いからな」 
責任感や義務感ではなく、やり甲斐を感じ、楽しいか否かがジーナの基準にある。
よくよく考えたら面倒臭い性格である。
メルセデスは今後ジーナのモチベーション維持に神経を削ることになるのではないかと、
今から少し暗澹とした気分になるのだった。

メルセデス「それにしても・・・」
メルセデス「捕虜と窃盗犯を同じ牢屋に入れていいのだろうか」
ジーナ「しょうがないよ、こんな盛況になるとは思わなかったんだから」
圭夏「嬉しい悲鳴ってヤツだな」
ソフィア「違いますよ」
ななこ「これはもう一部屋増やしてもらうしかありませんね」

署長室の扉が勢いよく開く。
テルキネス「また俺をこきつかう話をしてるのか!」

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